「森の民は閉鎖的な民族だった。森に閉じこもって暮らし、諸国が言うような攻撃性などあるはずがない。だが、その閉鎖性と特殊性が仇となった。謎に包まれた民族として噂が噂を呼び、尾ひれがついていった」
ディアドラは言う。
森の瘴気とは非常に濃い魔力のこと。濃すぎるために森の民以外には毒となる。 彼らは独自の神を信仰していたが、別に邪神ではない。森を守護すると言われている神だった。「その神の……」
ディアドラは少し迷ってから続けた。
「神の秘宝を狙って、アレス帝国は戦争を仕掛けた」
「…………!」
俺は思わず彼女を見る。その話が本当なら、戦争の真実は一般に流布しているものと真逆になる。
ディアドラは続けた。「秘宝の名は『エーテルライト』。星の光が渦巻く宝玉と伝え聞いている」
「それは、どのような秘宝なのですか」
「我が父――森の民である彼によると、魔力を無尽蔵に溜めておけると。溜めるだけではなく放出や分配も可能ということじゃ」
「かなりとんでもない効果ですね……」
魔法使いにとっては、魔法がいくらでも使えることになる。
それに放出。魔力の放出そのものが威力ある武器になるとしたら? アレス帝国が狙うのもうなずける。「アレス帝国が単独で攻め入らず、諸国同盟を組んだのは、森の民が手強い相手だったのが一つ。森の民はそこまで数が多くないが、一人ひとりが手練れの魔法使いで、しかも深い森に住んでおった。当時は今ほど強大ではなかったアレス帝国にとって、リスクが高かったのだろうな」
ディアドラはため息をついた。
「そしてもう一つは、責任の分散。正直に言えば森の民を滅ぼすほどの大義名分は、存在しなかった。一国で戦争をすれば他国から責められる口実を与えかねん。そこで秘宝の存在をちらつかせ、諸国を煽ったのだろう」
「秘宝は、エーテルライトはアレス帝国が奪ったのでしょうか」
「不明じゃ。だが
魔法都市マナフォースには、到着から二週間ほど滞在した。 議会承認と手続きが終わるのを待っている間、俺とバルトは約束を果たすべく動いていた。 マナフォース内の難民をまとめて奴隷にする計画だ。……なんか、まるで悪人みたいな言い方になってしまったな。 それはともかく。 元首であるディアドラとマナフォース議会の許可のもと、衛兵たちの力を借りて難民を町の外に追い立てる。 逃げようとする者は強制的に捕まえた。老若男女、子供でも容赦なしだ。 ちょいと心が痛むが、難民たちはマナフォース住民に迷惑をかけ続ける存在でもある。それに何より、このままここに居座ったっていいことは何もない。手心は加えるべきじゃないだろう。 町の外に追い出した難民は、奴隷商人が片っ端から捕まえて手かせをつけていった。 数は百人以上はいるな。あちこちから悲鳴が上がっている。 胸くそ悪いがここで止めるわけにはいかない。「お前たちは許可なくパルティアから逃げ出し、マナフォースに不法入国をした。マナフォースにとっても、パルティアにとっても、お前たちは犯罪者だ。犯罪者が奴隷になったとて、文句はないよな?」 バルトが冷たい声で言う。 抗議の声は完全に黙殺されてしまった。 次は俺の番だ。「俺はユウ。今回、奴隷商人を手配してお前たちを買い付けた。俺は事情があって、人手をたくさん必要としている。だからお前たちを使う予定だ。ただし行き先が北の土地で、成功の保証はまだない。だからお前たちが選ぶといい。俺といっしょに北で開拓をするか、パルティア王国に残って奴隷として過ごすか」「北で開拓するだって? 無茶な!」 難民たちの間から声が上がる。「南の土地だって開拓村は潰れてばかりなんだ。北で開拓なんかしてみろ、全員寒さの中で飢え死にだろうが!」「そうだ、そうだ」「そんな自殺まがいのことに付き合っていられるか」 だいぶ評判が悪いな。ここで人手を確保できないと困る。 そこで俺はさらに言った。「勝算はある
「森の民は閉鎖的な民族だった。森に閉じこもって暮らし、諸国が言うような攻撃性などあるはずがない。だが、その閉鎖性と特殊性が仇となった。謎に包まれた民族として噂が噂を呼び、尾ひれがついていった」 ディアドラは言う。 森の瘴気とは非常に濃い魔力のこと。濃すぎるために森の民以外には毒となる。 彼らは独自の神を信仰していたが、別に邪神ではない。森を守護すると言われている神だった。「その神の……」 ディアドラは少し迷ってから続けた。「神の秘宝を狙って、アレス帝国は戦争を仕掛けた」「…………!」 俺は思わず彼女を見る。その話が本当なら、戦争の真実は一般に流布しているものと真逆になる。 ディアドラは続けた。「秘宝の名は『エーテルライト』。星の光が渦巻く宝玉と伝え聞いている」「それは、どのような秘宝なのですか」「我が父――森の民である彼によると、魔力を無尽蔵に溜めておけると。溜めるだけではなく放出や分配も可能ということじゃ」「かなりとんでもない効果ですね……」 魔法使いにとっては、魔法がいくらでも使えることになる。 それに放出。魔力の放出そのものが威力ある武器になるとしたら? アレス帝国が狙うのもうなずける。「アレス帝国が単独で攻め入らず、諸国同盟を組んだのは、森の民が手強い相手だったのが一つ。森の民はそこまで数が多くないが、一人ひとりが手練れの魔法使いで、しかも深い森に住んでおった。当時は今ほど強大ではなかったアレス帝国にとって、リスクが高かったのだろうな」 ディアドラはため息をついた。「そしてもう一つは、責任の分散。正直に言えば森の民を滅ぼすほどの大義名分は、存在しなかった。一国で戦争をすれば他国から責められる口実を与えかねん。そこで秘宝の存在をちらつかせ、諸国を煽ったのだろう」「秘宝は、エーテルライトはアレス帝国が奪ったのでしょうか」「不明じゃ。だが
一週間ほど経つと、手続きが完了したとの知らせを受けた。 協力関係の樹立を祝って、宿屋のホールでもてなしと歓迎のパーティが開かれるのだそうだ。 必要ないと断ったのだが、「我が国としてユウを支援するのじゃ。こういった催しは、対外的に必要なのでな」 と言われて受けることにした。まあ、これも仕事のうちだ。 マナフォースの議会員たちに挨拶をして顔をつなぐ。 パーティはさすがに正式な場で、いろいろと堅苦しい。 バルトは上手くやっているし、エリーゼも笑顔で対応しているが、俺はどうにも苦手だった。 一通りの役目を終える頃には、パーティもようやくお開きとなった。 場違いな態度を取り続けて疲れてしまったので、屋上で風に当たってこようと思った。 宿の屋上に出れば、よく晴れた夜空に星々が広がっている。 日本の星座とはもちろん違う星。 けれど天の川は一緒だった。 この世界にも宇宙があって、星雲が重なって見えるのだろうか。 そんなことを考える。「ユウよ」 背後から声をかけられた。聞き慣れた声だった。振り返ってみるとディアドラがいる。「ご苦労だったな。これで面倒な手続きは全て終わった。あとは雪の民と合流の上、パルティア王宮へ赴こう」「はい。無茶なお願いをきいていただいて、心から感謝しています」「なに。我らが動くに十分な利益を提供してもらったのだ。当然のことよ」 ディアドラは俺の横へ来て夜空を見上げた。「その若さで超一流の冒険者となり、さらには開拓村を計画する、か。――森の民のお前がのう」「…………」「あぁ、そう警戒しなくてよい。さすがに同胞は見れば分かる。森の民の魔力は独特だからな。もっとも私は半分だけの血だが」 彼女は自分の耳を指でつついて見せた。「純粋な森の民に会うのは、ずいぶんと久しぶりじゃ。二十年前の森の民殲滅戦争以来、彼らは数をひどく
マナフォースにいる難民は、ほとんどがパルティアから流入したもの。 パルティアは貧乏人に厳しい国だ。 開拓村は重税と魔物の害で立ち行かないケースが多くて、奴隷商人が横行している。エリーゼの村もそうだった。 それでパルティアで食い詰めた者は、新天地を求めて難民として国外へ流れていく。マナフォースは距離が近いので、流出先になっているのだ。おかげでマナフォースは迷惑している。 パルティアは一応難民を人口流出として取り締まっているが、他国に行ってしまった人らを連れ戻すまでの手間はかけない。むしろ「貧乏人は勝手に出ていけ、戻って来るな。あとはそっちの国で何とかしてくれ」くらいの態度である。 調べたところ、パルティア国内法では他国に入った難民はパルティア国籍を失うとのこと。パルティアが国として難民をどうこうするつもりのない意思表示だ。 というわけで、難民たちを奴隷にしてもパルティアが口出ししてくることはない。 唯一利がないのは奴隷にされる難民たちだけど……。 一応、開拓村で働くかパルティア王国内で奴隷をするか選ばせてやろうと思っている。 どうせこの国に難民として留まったところで、乞食をするか野垂れ死ぬかの二択だし。 なお、奴隷商人は盗賊ギルドが手配した。 奴隷商人は許可制の商売だが、人身売買の性質上、裏社会に顔が利く盗賊ギルドとつながりが深い。 まあこの辺はあまり詳しく話を聞きたくないから聞いていない。「ふうむ……」 ディアドラがため息をついている。 しばらく悩んだ様子の後、やがて顔を上げた。「よかろう。取引成立だ。この件は明日にでも臨時議会にかける。すぐに承認は得られるじゃろう」「ありがとうございます!」 俺たちは深々と頭を下げた。 ディアドラはゆったりとうなずいた。「宿を用意しよう。議会承認が出るまでせいぜい数日じゃ。それまでゆるりと休んでおくれ」「お心遣いに感謝します」「で、だ
ディアドラは表面上は柔らかく、しかし目の奥に警戒を潜ませながら続ける。「百年前とはいえ、有効な条約の再確認か。正当性では雪の民に分があるな。だがユウよ、そこまでする以上、開拓村の成功に自信があるのだな?」「ええ、もちろん。家には農業スキル持ちの優秀な奴隷がいますが、彼が北の土地での農業に見立てを立てました。雪の民の協力も見込めます。俺自身が一流の冒険者で、ダンジョン攻略で資金を稼ぐこともできます。重すぎる税金で根こそぎお金と作物を持っていかれる現状に比べれば、どれだけ希望があることか」 店を開けば難癖をつけられ、畑で作物を作っても半分取られる。それ以外の収入もガッツリ税金で持っていかれる。 で、うっかり税金滞納するとあっという間に犯罪者だ。あの国、おかしいだろ。「まあ、パルティアについてはわしもよく知っておる。隣国だからの。それもこのマナフォースよりもはるかに巨大な国じゃ」 ディアドラが俺を見つめながら言った。「パルティアは欲深い国。最近はだいぶ大人しくなったとはいえ、本質は変わっておらぬだろう。お前の開拓村が栄えれば栄えるほど、パルティアは欲しがるだろうなあ」「……はい。だからこそ、ディアドラ様の後押しで北の国境線と雪の民の土地を確保したいのです。せめて大義名分がなければ、攻め入って来られない程度の予防線が欲しいのです」「大義名分など、いくらでもでっちあげられるじゃろ。どの程度の予防になるやら」「ないよりはずっとマシです。それに北の国境線と雪の民の存在を広く諸国に知らしめれば、パルティアも手出ししにくくなる」 ディアドラは声を殺して笑った。「くくく、そりゃあそうじゃわ。下手な大義名分で攻め込めば、逆に他国からパルティア自身が攻められないとも限らん。なるほど、悪くない手だ」 彼女は笑い声を引っ込めると続けた。「で、我がマナフォースはどんな利がある? 確かにお前の手土産は魅力的じゃ。だがこれだけをもって、大国パルティアの機嫌をそこねてはかなわん。我が国はパルティアと接しているゆえ、常に相手の出方を伺っているのだ」
「手土産は他にも用意しました。こちらをどうぞ」 俺は自作の杖とバドじいさんの護符を取り出した。 ディアドラの目の色が変わる。「魔法銀の杖か! 宝石の魔力が高純度で付与されておる。だがこの文様はなんじゃ、見たこともない」「それは企業秘密ということで……」 あの謎の洞窟の話を口外すると、即座に白騎士ヴァリスにバレてしまう。追っ手が来て殺されるのはごめんだからな。「ふうむ。文様だけではない、非常に高い技術で魔力がめぐらされておるのう。ここまで高品質な杖は、このわしをして初めて見た」 え、そこまで? そりゃあ今の俺の持てる力を全て注ぎ込んだ杖だけど、魔法都市のトップが絶賛するほどのものだったとは。 俺がぽかんとしているのに気づいて、ディアドラは苦笑した。「おっと、ちと言葉足らずだったのう。もちろん国宝級や伝説級の杖は、もう一枚も二枚も上手じゃよ。けれども一介の職人が作ったもので、材料も特別なものではないとなれば、間違いなく最高ランクになる」「それでも過分なお言葉です」 俺は素直に言って頭を下げた。正当に評価した上で褒めてもらって、じんわりと胸が暖かくなる。「この護符も見事な出来じゃ。魔法書といい杖といい、ずいぶん気前のいい贈り物だのう」 ディアドラは笑顔のままだったが、瞳の奥に打算的な光が灯った。 ……交渉はこれからだ。 エリーゼやバルトと目配せして、俺は深呼吸をした。「実はディアドラ様に、お願いがあって参りました」「ふむ」 彼女がうなずいたので、俺は続ける。「俺は先日、北の土地へ旅した際に雪の民という人々と出会いました。彼らはパルティア王国の北の国境線の外側に暮らす人々です。驚いたことに、雪の民はパルティア王国と正式な不可侵条約を交わしていました。百年も前のものですが、俺の見た限りでは文書に不備もないようです」「ほう、聞いたこともない
激レアの魔法書と古文書、俺お手製の杖、それにバドじいさん作の護符を携えて、俺たちは魔法都市を目指した。 同行者はバルトとエリーゼ。 エリーゼは交渉や文書を読むのが得意なので、ついてきてもらった。 店のほうは補佐として買った奴隷が成長していて、短期的に任せる分には問題ない。 道中は何の問題もなく進んで、やがて行く手に町並みが見えてきた。 町の東と南を細長い湖に抱かれている。 水の景観を生かした風光明媚な町。それが魔法都市マナフォースだった。 湖を回り込んで町へと入る。 町の内部もあちこちに水路が引かれていて、荷物を載せた小舟が進んでいる。 石造りの道や橋が入り組んで、まるでちょっとした立体迷路のようだ。 随所に出されている魔法関連の店と相まって、不思議な雰囲気をかもしだしていた。 けれどよく見れば、橋の下や路地裏などにボロをまとった人々が座り込んでいる。 橋の下の両側に布を吊るして、簡易住居のようにしている人までいる。 貧しい人、スラム街はどこの町にも発生するようだ。「お金ください。小銭でいいです」 物乞いの男性が近づいてきて、ひび割れた木の入れ物を差し出してきた。 気の毒ではあるが一人に恵んでやると群がられてしまう。 俺たちは彼を無視して先を急いだ。 俺たちは表通りを進んで、魔法ギルド本部の隣りにある役所に入った。 バルトが事前にアポを取っていてくれたおかげで、お偉いさんと問題なく面会の運びとなる。 バルトいわく、「手土産の目録を渡したら、二つ返事でOKしてくれたよ。レア物に目がくらんだんだろうね」 とのことだ。 そして応接室に通されてお茶を飲みながら待つことしばし。「魔法ギルド長にして魔法都市国家マナフォース元首、ディアドラ様のおなりです」 秘書官の声が響く。 重厚な木の扉が開かれた。&nbs
バルトは眉間にしわを寄せている。「駄目だろ。ここまでの名剣を安売りするな。鍛冶の腕が泣くよ?」「安売りなんてしていない。バルトに今までさんざん世話になったから、お礼だよ。カルマが下がって困っていたときも、王宮に忍び込んでヴァリスに会いに行ったときも、それに今度の魔法都市行きも。いつだって力を貸してくれたじゃないか」「あ、あー。それはギブアンドテイクというか、僕たち盗賊ギルドにも旨味があったから手出ししたというか……」 バルトは彼らしくもなく言いよどんでいる。ちょっと頬が赤い。 照れているのだろうか? 事実を言っただけのつもりなんだが。 俺は続けた。「お前に別の考えがあったとしても、俺は助けられたと思っている。だからもらってくれ」 バルトは俺の顔を見て、しばらくしてから言った。「……そういうことなら。ありがたくいただくよ」「よし! 残り時間で最高の双剣を作ってやる。楽しみにしておいてくれ」 俺が力を込めて言ったら、彼は嬉しそうに笑ってくれた。(まったく、変な奴だよ) ユウの鍛冶場を後にしてバルトは思った。(この世は良くてギブアンドテイク。油断すればすぐに弱肉強食なのに。ついこの前までは、ユウは食われるだけの弱者だったはずなのに) ユウが店を出したのは、最初の頃から知っていた。 ろくに警備員を置かずにいるものだから、強盗に気をつけろと忠告したこともあった。 バルトの属する盗賊ギルドは、裏社会に根を張る犯罪集団としての顔と、ダンジョン攻略の「盗賊職としての」冒険者を支援する組織という二つの面を持つ。 盗賊ギルドの本拠地、ならず者の町ディソラムでは裏の顔が強い。 その他の町にも密かにネットワークが張り巡らされている。 けれど冒険者としての盗賊職――表の顔も盗賊ギルドにとっては重要だった。 単
杖二本を作っても時間が余っていたので、俺は双剣を作ることにした。 バルト用のだ。 彼は盗賊ギルドの一級ギルド員。 以前いっしょに旅をしたが、一流といえる腕の持ち主だった。 双剣は短剣を二本装備して両手で操る戦い方。 目にも止まらぬ連撃がバルトの得意技だ。 今回見た所、以前と同じ獲物を使っている。 決して悪い品ではないしよく手入れもされているが、やや古びているように思う。 バルトには何度も世話になった。 ここらで手土産ならぬお礼の品を贈っておくのもいいだろう。 なら、今の俺の全力で双剣を作らないとな。 地金は竜爪を選んだ。 同じ竜から取れる素材でも竜鱗は防具や護符向き。竜爪は武器に向いている。 宝石はエメラルド。 風属性で風竜の爪に合わせてみる。 バルトは軽業スキルを併用した疾風怒濤の動きが得意だからな。風属性は軽業スキルと相性がいい。 彼は魔法は使わないので、魔力は軽さと切れ味に全振りでいいだろう。 八割方完成したところで、試作品を使ってもらった。「これを僕に?」 バルトは目を丸くした後、嬉しそうに竜爪の双剣を手に取った。 くるくるとジャグリングのように回してから、目にも止まらぬ速さで一通りの型を披露してくれる。「さすが。前より腕を上げている」 俺が言うと、バルトは得意げに笑った。「まあね。この世界で生き抜くには、立ち止まったままじゃいられないだろ」「そうだな。……ところで、微調整が必要な箇所はあるか? 今なら直せるし、何なら魔法の付与もできるが」「本当かい? それじゃあ突風の魔法の付与をお願いしたい。接近時の牽制や目眩ましに使いたいんだ」「了解。それと微調整だが、右手用のをちょっと軽くしたほうがいいな。お前は両利きだが、右手が少しだけ弱い」「…………」 バルトは